2026.06.18 メールマガジン 社労士アツコの事件簿バックナンバー 業務が前に進まない本当の理由、それ「社長」かもしれません

毎月10日ごろ配信のARIA Solutionのメールマガジン「社労士アツコの事件簿」は、ストーリー形式で楽しく面白く、人事労務や組織開発についてのエッセンスを学べるメルマガです。

社会保険労務士の初台厚子(はつだい・あつこ)が、人事労務に関する困りごとやトラブルを解決したり、ヒントやアドバイスを伝えたりしていきます。

小さい会社なら、社長が給与計算や経費精算、経理までやるのは当たり前かもしれません。

しかし、社員が増えてくると、社員からの問い合わせの対応で、社長の時間が潰されている! という事態が発生します。

社長が本当にやるべきことは何でしょうか?
今やっているその作業、誰かに頼むことはできませんか?

今回は、そんなお話です。

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中小企業を対象とした経営コンサルティング会社、グローシード社のオフィスは、今日もにぎやかだった。

ただし、その中心にいるはずの社長・緑山健斗の顔は、ここ数ヶ月ずっと曇っている。

「……あ、木梨さん。経費の承認、あとで見るね」

「はい。よろしくお願いします」

そう言われてから、もう3日。
事務職兼アシスタント職の木梨は何も言わず、静かに頷いた。

給料日の前日。
緑山はパソコンに向かい、眉間にしわを寄せていた。

「社会保険料、これで合ってるよな……」

そのとき、若手コンサルタントの奥野がひょいと顔を出す。
緑山は思わずパソコンの画面を、手で覆った。

「社長、明日のクライアントとの会食なんですけど、場所ちょっといい店でもいいですか?」

「……ああ、いいよ」

続いてベテランコンサルの田畑が電話をかけてくる。

「今度の出張、いつものホテルが取れなくてさ。1万くらい高いんだけど、いいよね?」

「……まぁ、ほかにないなら仕方ないな」

電話を切ったあと、緑山は深く息を吐いた。

その翌朝。
新しく入ったコンサルタントが、青い顔で木梨に話しかけた。

「給料、まだ振り込まれてないみたいで……妻から電話がきて」

「昼頃には振り込まれる予定です、とお伝えください」

新人コンサルに答えながら、木梨は胸がぎゅっとなった。

――社長、限界だ。

(社労士の初台先生からも、年度更新に必要な給与データの連絡が来ているし、税理士の先生からも、仮払金の確認が来ていたっけ)

木梨は、社長を手伝ってあげたいという気持ちはあるが、給与や経理に関することは、やんわりと社長から拒絶されたことがあった。

電話を取り次ぐたびに、「すみません。社長に伝えておきます」としか言えないことがもどかしかった。

数日後。
社労士の初台厚子から緑山に電話が入った。

「緑山さん、給与データ、そろそろお願いできますか?」

「あ……すみません。本当にすみません」

一通りデータの話が終わったあと、アツコは少し間を置いた。

「お忙しそうですね。最近、どうですか?」

「正直……回ってません。ちょっと前までは、こんなことなかったんだけど」

アツコは、うんうんと相槌を打つ。

「ここ数ヶ月で、社員数が増えましたよね」

「ええ。ベテランコンサルの田畑さんと2人でスタートした会社が、2年ちょっとで10名以上になりました」

ここは誇らしげな緑山だ。しかし、続いた言葉には困惑がにじみ出ていた。

「ただ、社員の連絡に返してるだけで一日が終わってしまうことも多くて……」

そんな緑山にアツコが聞いた。

「承認業務や給与計算など、社長がほとんど1人でされているのでしたっけ?」

「ええ、そうです。まだこの人数だから大丈夫だろうと思っているんですけどね」

「給与は遅れると、社員さんが不安になりますよね。
それに、“賃金支払の5原則”がありますから、気を付けてくださいね」

*賃金支払の5原則
  労働基準法第24条において、
   (1)通貨で、
   (2)直接労働者に、
   (3)全額を、
   (4)毎月1回以上、
   (5)一定の期日を定めて支払わなければならない
  と規定されています(厚生労働省サイトより)

「……はい」

ここでアツコは提案をした。

「給与計算や承認、そろそろ分けて考えませんか?
一気に変えなくて、少しずつでいいんです。
旅費交通費のルールを決めるだけでも、問い合わせは減りますよ」

「でも……全部把握しておかないと、怖くて」

その言葉に、アツコは少しだけ声のトーンを落とした。

「緑山さん」

「はい」

「社長が全部抱えて止まってしまったら、会社も一緒に止まりますよ」

一瞬、沈黙。

「“頑張ってる社長”でいることと、“会社を回す社長”でいることは、同じじゃないんです。
それに、ずっとこの規模の会社でいることを想定しているのですか?」

その一言に、緑山はハッとした。

「社員が増えれば、いずれは今社長がやっている業務を手放していくことになります。
今くらいの人数のうちに、給与計算業務の流れや、旅費交通費などのルールを作っておくのはいかがですか?」

アツコからの提案に、緑山は会社の未来を想像した。

「そうですね。会社を大きくするとともに、自分も成長しなければいけないですよね」

「人に任せることも、大事な仕事です」

「はい。まずはどこを誰に任せるか、考えてみます」

「ぜひそうして下さい」

給与データがアツコに届いてから数日後のこと。木梨からアツコに連絡が入った。

今後は木梨が、単なる電話の取次ぎではなく、アツコと緑山の間の窓口になって、資料のやり取りもすることになったとのこと。

給与計算はまだ手放せないらしい。

「まずは一歩、進んだかな?」

アツコは緑山の顔を思い浮かべながら、ひとり微笑んだ。

(これはフィクションです)
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給与データを社員に見せたくないために、社労士への提出が遅くなる、ということはままあります。

社長の気持ちもわからなくはないですが、そもそも社長はお忙しいはず。

業務を人に任せることで、社長の時間が生まれます。

全部一気に手放すのは難しくても、段階的になら、できることがあるのではないでしょうか。

「どこをどう任せたらよいのか?」

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