2025.02.13 社労士アツコの事件簿バックナンバー 昇給のはずが“減給”気分?! 手取りはなぜ減ったのか?

毎月10日ごろ配信のARIA Solutionのメールマガジン「社労士アツコの事件簿」は、ストーリー形式で楽しく面白く、人事労務や組織開発についてのエッセンスを学べるメルマガです。

社会保険労務士の初台厚子(はつだい・あつこ)が、人事労務に関する困りごとやトラブルを解決したり、ヒントやアドバイスを伝えたりしていきます。

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■◆■ Case3 昇給のはずが“減給”気分?!■◆■

「ねぇ! 昇給したのに、なんで手取りが減ってるの?!

マスビシエンタテイメント株式会社で営業をしている本田勝利は、帰宅するなり妻の真理子に問い詰められた。

「え? 手取りが減ってる?」

「そうよ、今日は給料日だからATMに行ってきたのよ。
 今月からお給料が上がるって言っていなかったっけ?」

「そうだけど……。給料が上がると税金も増えるんじゃないのか?」

「こんなに減ったらやっていけないわよ。
 昇給したって聞いたから、喜んでいたのに」

「……明日、会社で聞いてみるよ」

本田には給与明細を確認するという考えは、まったく思い浮かばなかった。
そもそも、毎月、明細の入っている封筒を開けもしないまま、会社のゴミ箱へ捨てているのだ。

翌日、本田は人事部長の下田に詰め寄った。

「昇給したのに、手取りが減ったってどういうことですか?!」

昨晩の妻の勢いが、そのまま下田部長に向かった。

まずは直属の上長に話したのだが、そんなの知らない、昇給はしてるだろ? といった風で、「人事部に聞いてこい」と言われたのだ。

「昇給したのに減るなんて、本末転倒ですよね!」

「……確認して連絡するから」

本田をなだめて退出させた下田は、すぐさま受話器を握り外線をかけた。

「初台先生、助けてください!」

下田が電話をかけた相手は、社会保険労務士の初台厚子(アツコ)。
顧問社労士として下田の相談に何度も乗ってきた心強い存在だ。

「昇給のタイミングで手取りが減った、ということですね?」

下田はことの経緯を話して、アツコの明るく穏やかな声を聞くうちに、やっと気持ちが落ち着いてきた。

「どうもねぇ、会社が悪いように言われているみたいで。困ったなぁ……」

アツコは電話越しに、賃金台帳を確認する必要があることを伝えた。

「まず、昇給前後の賃金台帳を送ってください。それで原因が見えてくるはずです」

「わかりました! すぐに送ります」

メールに添付された賃金台帳を見ながら、アツコはすぐに原因を突き止めた。

昇給額はごくわずかだったが、住民税の額が大幅に増えている。
前年の賞与がかなり高額だったため、それが影響しているのだ。

「これだな……」

彼女は電話をかけ直した。

「下田部長、わかりましたよ。住民税が原因です。
 前年の収入をもとに決定される住民税が、ちょうどこのタイミングで引かれ始めたんです。
 冬の高額賞与が影響してますね」

「ああ……そういうことですか」

「あくまで前年の成果が評価されての税金増加なので、むしろ本田さんが頑張った証です。
 本田さんにはしっかり説明すれば、納得してもらえるはずですよ」

「……だといいのですが」

下田の声はまだ浮かない。

 *    *    *

翌日、アツコはマスビシエンタテイメント社の近くに用があったので、下田部長を訪問することにした。

本田も人事部の応接ブースに来ており、アツコと対面することになった。

「昇給したのに手取りが減るなんて、おかしいじゃないですか!」

本田の語気は強い。しかし、アツコはにこやかに頷きながら応じた。

「本田さん、ちょっと確認ですけど、昨年の冬の賞与はいつもより多かったですよね?」

「ああ、そうですね。でも、それが何か?」

「その高額賞与が反映されて住民税が増えたんです。
 ご存じのとおり、住民税は前年の収入に基づいて計算されます。
 今年の昇給のタイミングと重なっただけなんですよ」

本田は一瞬言葉を失った。

「つまり……会社が悪いわけじゃないってことですか?」

「もちろんです!」

アツコは笑顔を見せた。

「むしろ、会社がしっかり成果を評価して、賞与を出してくれたということです。
 奥様にも説明してあげてくださいね」

まだ戸惑っている様子の本田に、アツコはもう1つ質問した。

「ちなみに、給与明細は確認しましたか?

「え? あ、いいえ……。さっきのこと、妻に話してみます」

本田はそう言ってペコリと頭を下げた後、後頭部をかきながら人事部の部屋を出ていった。

アツコは下田にも伝えた。

「人事部でも、まずは賃金台帳を確認しましょうね」

「は、はい」

 *    *    *

その日の夕方、下田がアツコにお礼の電話をかけてきた。

「本田さんも奥様も、ちゃんと理解してくれたみたいです。
 初台先生、本当に助かりました!」

アツコは微笑みながら答えた。

「下田部長、人事部はもっと自信を持ってください。
 会社が悪者になるなんて考えなくて大丈夫。むしろ誇るべきことですよ」

そして、いつもの穏やかな声で一言。

「悪者にならないようにするんじゃなく、いい会社であることを伝えるのが大事ですからね」

下田はその言葉を噛み締めながら、電話の向こうで深く頭を下げた。

(これはフィクションです)
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昇給したのに、手取りが減ってしまった……。

実はこれ、時々お問い合わせをいただくことなのです。

その原因は、今回のケースのように住民税が増額になる場合もあれば、社会保険料が増額になる場合もあります。

いずれにしても、会社が悪意でやっているわけではありません。
(そもそも税金や社会保険料を決めているのは会社ではありません)

社員を評価して昇給や賞与を支給した結果、反映されるものです。
会社側は後ろめたい気持ちを持つ必要はないのです。

支給された金額に疑問がある場合は、社員の方ならまずは給与明細を、人事・給与担当者ならまずは賃金台帳を確認しましょう。

数ヶ月分比較すれば、原因が見えてきます。

また、昇給のタイミングと、新年度の特別徴収の始まりの時期が重なる場合は、認識しておくとよいでしょう。

ささいなことでも気になることがあれば、お問い合わせください。

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次回の事件簿もお楽しみに!^^