毎月10日ごろ配信のARIA Solutionのメールマガジン「社労士アツコの事件簿」は、ストーリー形式で楽しく面白く、人事労務や組織開発についてのエッセンスを学べるメルマガです。
社会保険労務士の初台厚子(はつだい・あつこ)が、人事労務に関する困りごとやトラブルを解決したり、ヒントやアドバイスを伝えたりしていきます。
現在の会社の運営と、就業規則は合っていますか?
もしかしたら、社員が増えて10名を超えたときに、“とりあえず”、“急ぎ”で作ってしまい、そのままになっていたりしませんか?
小さな会社でも、成長スピードが早いと、あっという間に現状と規定のズレが生じてきます。
今回は、就業規則のお話です。
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■◆■ Case9 就業規則 “うちはうちのやり方で” が、危ない ■◆■
東京都郊外の駅前にある小さな美容室「Coco(ココ)」。
若い女性の、少し背伸びをしたくなる気持ちをくすぐるような、可愛らしくも、ちょっぴり大人っぽさのあるヘアサロンだ。
店主は芹沢明彦(せりざわ・あきひこ)・45歳。独立して7年、妻の佳代(かよ)と二人三脚で育ててきたCocoは、2年前に念願の支店を出すまでに成長した。
支店を任せたのは、現在勤続7年目の山田花梨(かりん)。技術も人望もある信頼の厚いスタッフだ。
2つの店舗でスタッフの人数は10名を超える。
そんなヘアサロンCocoに、少しずつ“ほころび”が見え始めたのは、昨年から続いたスタッフの出産ラッシュがきっかけだった。
ある日、佳代が求人媒体に出す原稿をチェックしていて、違和感に気づいた。
「かりんのところ、募集の勤務時間が13時~22時になってる。 これ、就業規則と違わない?」
「え、それ、うちのシフトと違うじゃん」
明彦が就業規則を見るまでもなく、勤務時間が異なっていた。
Cocoの勤務シフトは、営業時間の10:00~21:00の前後に準備や片づけの時間を見込んで、早番が9:30~18:30、遅番が12:30~21:30となっている。
これは本店も支店も共通しており、面接時にも説明しているはずだった。
さっそく佳代はかりんに電話をかけた。
「あれ? 違いましたっけ? でも実際、22時過ぎまで働いていますし、それに合った時間で出したつもりでしたけど……」
かりんの言葉に佳代は思った。会社が大きくなり、支店ができ、スタッフも増えてきた今、いつの間にか“最初に決めたこと”が忘れ去られている。
そうなると、気になるのは他にもある。就業時間、残業代、手当の支給……。
「ちょっと、アツコ先生に相談してみようか」そう呟いた佳代に、明彦も頷いた。
数日後。顧問社会保険労務士・初台厚子がCocoを訪れた。
社労士歴15年、明るく親しみやすい人柄の上、芹沢夫妻とは年齢がほぼ同じなので、「アツコ先生」と下の名前で呼ばれていた。
「今回は就業規則の見直しをご希望とのことですね」
アツコの目の前には、Cocoの就業規則と、ここ1年の賃金台帳が並ぶ。
「事前に就業規則は確認していただいたと思いますが、実際に現場と食い違っている部分は何かありましたか?」
佳代が頷く。
「はい、シフト時間の話や、みなし残業についても少し気になっていまして……」
「あと……」と明彦が続けた。「精勤手当が、実は……毎月全員に出ちゃってるんです」
アツコは小さく頷いた。
「就業規則では、精勤手当は『無欠勤または欠勤1日以内』の人に支給と明記されていますね。 そして、遅刻・早退3回で欠勤1日とみなす。 つまり、条件を満たしていない場合は支給しない仕組みです」
「ええ。でも、実際はお子さんの急な熱とか、保育園の送迎とかで遅刻・早退が月に3回以上だった人もいて……。 でも、みんな一生懸命働いているし……。 気がついたら、全員に一律で支給してしまっていました」
明彦は困った顔でアツコを見た。
アツコは少し考えてから、静かに口を開いた。
「……でしたら、その手当、やめてもいいかもしれませんね」
「え、やめる……?」
「今のままだと、ルールが機能していない上に、逆に不公平感を生んでしまう可能性があります。 “みんなに出すもの”なら、いっそ基本給に含めてしまう方法もあります」
明彦がぽつりと呟いた。
「でも……手当って、がんばりをねぎらう“気持ち”じゃないですか」
アツコはにっこりと笑った。
「もちろん、“想い”は大事です。 でも、その想いこそ、制度として“見える化”しませんか?」
芹沢夫妻は「どういうことか?」と戸惑いながら、話の続きを聞いた。
「精勤手当をなくすことが“冷たい”わけではありません。 むしろ、明文化されたルールに沿って、会社と社員が共通認識を持つ。 それこそが、お互いを守る仕組みなんです」
少し沈黙が流れたあと、アツコは穏やかに言った。
「就業規則は、“ルールブック”ということだけでなく、“会社のありたい姿”を社員と共有するための“言葉”なんです」
「ありたい姿……」
「育児中のスタッフも、これから入ってくる人も、“この会社は私を大事にしてくれる”と感じられるようなルールにすれば、制度が信頼になります。 今は、そのアップデートのタイミングなんですよ」
佳代と明彦は就業規則をじっと見つめた。
「“ルールで縛る”んじゃなくて、“ルールで伝える”。
大事なのは、“こうありたい”という会社の願いを、社員と分かち合えるようにすることです。
それを見えるようにしたのが就業規則なんです」
「会社の願い……」
佳代と明彦は、そっと顔を見合わせた。未来のCocoが、よりよい職場になるための第一歩が、ここから静かに始まったのだった。
(これはフィクションです)─・─・─・─・─・─・─・─・─・─・─・─・─・─・─・
このケースでは、採用の募集要項を作ることがきっかけで、就業規則と現状の運用にズレがあることに気づきました。
弊社のお客様でよくあるケースは、助成金を申請しようとした時に、改めて就業規則を確認してズレが発覚する、というものです。
就業規則は会社を守るものでもあり、どんな会社にしたいのかを表現したものでもあります。
就業規則をしっかり作っておかなければ、・どんな人を採用したいのか・何を募集要項に書けばいいのかということも、わかりません。
「うちの会社の就業規則ってどうなんだろう……?」と心配になった方は、こちらの診断ツールを試してみてはいかがでしょうか?
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