2025.08.18 社労士アツコの事件簿バックナンバー 就業規則 “うちはうちのやり方で” が、危ない

毎月10日ごろ配信のARIA Solutionのメールマガジン「社労士アツコの事件簿」は、ストーリー形式で楽しく面白く、人事労務や組織開発についてのエッセンスを学べるメルマガです。

社会保険労務士の初台厚子(はつだい・あつこ)が、人事労務に関する困りごとやトラブルを解決したり、ヒントやアドバイスを伝えたりしていきます。

現在の会社の運営と、就業規則は合っていますか?

もしかしたら、社員が増えて10名を超えたときに、“とりあえず”、“急ぎ”で作ってしまい、そのままになっていたりしませんか?

小さな会社でも、成長スピードが早いと、あっという間に現状と規定のズレが生じてきます。

今回は、就業規則のお話です。

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■◆■ Case9 就業規則 “うちはうちのやり方で” が、危ない ■◆■

東京都郊外の駅前にある小さな美容室「Coco(ココ)」。

若い女性の、少し背伸びをしたくなる気持ちをくすぐるような、可愛らしくも、ちょっぴり大人っぽさのあるヘアサロンだ。

店主は芹沢明彦(せりざわ・あきひこ)・45歳。
独立して7年、妻の佳代(かよ)と二人三脚で育ててきたCocoは、2年前に念願の支店を出すまでに成長した。

支店を任せたのは、現在勤続7年目の山田花梨(かりん)。
技術も人望もある信頼の厚いスタッフだ。

2つの店舗でスタッフの人数は10名を超える。

そんなヘアサロンCocoに、少しずつ“ほころび”が見え始めたのは、昨年から続いたスタッフの出産ラッシュがきっかけだった。

ある日、佳代が求人媒体に出す原稿をチェックしていて、違和感に気づいた。

「かりんのところ、募集の勤務時間が13時~22時になってる。
 これ、就業規則と違わない?」

「え、それ、うちのシフトと違うじゃん」

明彦が就業規則を見るまでもなく、勤務時間が異なっていた。

Cocoの勤務シフトは、営業時間の10:00~21:00の前後に準備や片づけの時間を見込んで、早番が9:30~18:30、遅番が12:30~21:30となっている。

これは本店も支店も共通しており、面接時にも説明しているはずだった。

さっそく佳代はかりんに電話をかけた。

「あれ? 違いましたっけ?
 でも実際、22時過ぎまで働いていますし、それに合った時間で出したつもりでしたけど……」

かりんの言葉に佳代は思った。
会社が大きくなり、支店ができ、スタッフも増えてきた今、いつの間にか“最初に決めたこと”が忘れ去られている。

そうなると、気になるのは他にもある。
就業時間、残業代、手当の支給……。

「ちょっと、アツコ先生に相談してみようか」
そう呟いた佳代に、明彦も頷いた。

数日後。
顧問社会保険労務士・初台厚子がCocoを訪れた。

社労士歴15年、明るく親しみやすい人柄の上、芹沢夫妻とは年齢がほぼ同じなので、「アツコ先生」と下の名前で呼ばれていた。

「今回は就業規則の見直しをご希望とのことですね」

アツコの目の前には、Cocoの就業規則と、ここ1年の賃金台帳が並ぶ。

「事前に就業規則は確認していただいたと思いますが、実際に現場と食い違っている部分は何かありましたか?

佳代が頷く。

「はい、シフト時間の話や、みなし残業についても少し気になっていまして……」

「あと……」と明彦が続けた。
「精勤手当が、実は……毎月全員に出ちゃってるんです」

アツコは小さく頷いた。

「就業規則では、精勤手当は『無欠勤または欠勤1日以内』の人に支給と明記されていますね。
 そして、遅刻・早退3回で欠勤1日とみなす。
 つまり、条件を満たしていない場合は支給しない仕組みです」

「ええ。でも、実際はお子さんの急な熱とか、保育園の送迎とかで遅刻・早退が月に3回以上だった人もいて……。
 でも、みんな一生懸命働いているし……。
 気がついたら、全員に一律で支給してしまっていました」

明彦は困った顔でアツコを見た。

アツコは少し考えてから、静かに口を開いた。

「……でしたら、その手当、やめてもいいかもしれませんね」

「え、やめる……?」

「今のままだと、ルールが機能していない上に、逆に不公平感を生んでしまう可能性があります。
 “みんなに出すもの”なら、いっそ基本給に含めてしまう方法もあります」

明彦がぽつりと呟いた。

「でも……手当って、がんばりをねぎらう“気持ち”じゃないですか」

アツコはにっこりと笑った。

「もちろん、“想い”は大事です。
 でも、その想いこそ、制度として“見える化”しませんか?」

芹沢夫妻は「どういうことか?」と戸惑いながら、話の続きを聞いた。

「精勤手当をなくすことが“冷たい”わけではありません。
 むしろ、明文化されたルールに沿って、会社と社員が共通認識を持つ
 それこそが、お互いを守る仕組みなんです」

少し沈黙が流れたあと、アツコは穏やかに言った。

「就業規則は、“ルールブック”ということだけでなく、“会社のありたい姿”を社員と共有するための“言葉”なんです」

「ありたい姿……」

「育児中のスタッフも、これから入ってくる人も、“この会社は私を大事にしてくれる”と感じられるようなルールにすれば、制度が信頼になります。
 今は、そのアップデートのタイミングなんですよ」

佳代と明彦は就業規則をじっと見つめた。

“ルールで縛る”んじゃなくて、“ルールで伝える”

 大事なのは、“こうありたい”という会社の願いを、社員と分かち合えるようにすることです。

 それを見えるようにしたのが就業規則なんです」

「会社の願い……」

佳代と明彦は、そっと顔を見合わせた。
未来のCocoが、よりよい職場になるための第一歩が、ここから静かに始まったのだった。

(これはフィクションです)
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このケースでは、採用の募集要項を作ることがきっかけで、就業規則と現状の運用にズレがあることに気づきました。

弊社のお客様でよくあるケースは、助成金を申請しようとした時に、改めて就業規則を確認してズレが発覚する、というものです。

就業規則は会社を守るものでもあり、どんな会社にしたいのかを表現したものでもあります。

就業規則をしっかり作っておかなければ、
・どんな人を採用したいのか
・何を募集要項に書けばいいのか
ということも、わかりません。

「うちの会社の就業規則ってどうなんだろう……?」と心配になった方は、こちらの診断ツールを試してみてはいかがでしょうか?

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