毎月10日ごろ配信のARIA Solutionのメールマガジン「社労士アツコの事件簿」は、ストーリー形式で楽しく面白く、人事労務や組織開発についてのエッセンスを学べるメルマガです。
社会保険労務士の初台厚子(はつだい・あつこ)が、人事労務に関する困りごとやトラブルを解決したり、ヒントやアドバイスを伝えたりしていきます。
“時代が変わった”と言われることがありますが、人事労務の世界、就業規則でもそれは言えます。
かつて、「従業員は文句を言わずに働いていればいいんだ!」という強い考え方がありました。
しかし、今は違います。
従業員が働きやすく、活き活きと活動する会社が成長していくことが、当たり前のように感じる人が多いでしょう。(現実にできているかどうかは別として)
今回は、時代が変わる前に、よくあった就業規則のお話です。
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■◆■ Case13 就業規則は作るだけじゃ意味がない。金庫の中に眠らせないで!■◆■
「初台先生、今日はよろしくお願いします」
小さな自動車整備工場を営んでいる有限会社丸山オートの社長・丸山公博は、少し緊張した面持ちでアツコを迎えた。
応接室のテーブルに並んだ資料を見て、アツコはにっこりほほえむ。
「こちらこそ。今日は就業規則の見直しについてですね。まずは現状を教えていただけますか?」
「実は……恥ずかしい話なんですが」
公博は頭をかきながら言った。
「就業規則、つい最近まで金庫の中にあったんです」
「金庫の中?」
アツコは思わず目を丸くした。
「父が社長だった頃は、社員も数人でしたからね。有給とか慶弔休暇とか、直接聞けばよかったんです。 だから就業規則は金庫に入れっぱなしで……。 私が社長になったときに、自分も見たことがなかったので出したんですが……」
公博は2年ほど前に、40歳で父の茂三からこの会社を継いだ。会社と公博はほぼ同い年で、茂三が個人事業主の頃から数えると、40年も続いていることになる。
茂三の代で作った就業規則は、簡単なものではあったが、有給休暇を悪用されたくないと考え、金庫に入れていたそうだ。
今では考えられないが、かつてはこういう考え方が多かった。
「なるほど。でも、従業員の方々に周知は?」
「それが……ほとんどしてないですね。僕自身もまだ全部は読んでいません」
話すほど公博は下を向き、先生に怒られている小学生のようだ。
アツコは苦笑しながらうなずいた。
「そういう会社さん、多いんですよ。今回は、このひな型をもとに新しく作っていきましょう」
彼女は持参したノートパソコンの画面に、文書作成ソフトで作ったひな型を広げた。
「完成したら社長にデータを渡しますので、わかるように保存しておいてください。 今後も改訂はあると思いますから、次に使えるように」
「はい。あの……出来上がった就業規則というのは、どうやって周知していけばいいんですか? 印刷して配ればよいのでしょうか?」
「それよりも、従業員の方を集めて説明会をするのがよいでしょう」
「説明会が必要なんですか?」
「労働基準法では、就業規則の周知義務というのがあります。 就業規則を作成するだけではなく、その内容を従業員に知らせなければならないんですね。
簡単な修正だけなら、書面を配布したりメールで配信したりすればよいですが、今回は大きな改訂です。
それに、今まで金庫の中にあったということは、従業員の人たちに説明したことはないですよね?」
「少なくとも、私がこの会社に入ってからは、ないですね」
「一見、面倒に思えますが、配布だけして『あとは読んでおいて』とやってしまうと、人によって解釈が違ったり、『これはどういうことですか?』とバラバラに質問がきたりします。
そうしたことを防いで、すべての従業員がいる場所で説明し、疑問があれば回答しておくのがよいですね」
「なるほど。同じように伝わらない可能性があるのですね」
「そうなんです。誤解される場合もありますから、オープンな場で明らかにしておきましょう、ということなんです」
「わかりました」
公博は内心、父と共に働いてきた人たちが、果たして自分の話を聞いてくれるのかと、少々不安になっていた。
「もし社長おひとりで説明するのが不安でしたら、私も立ち会いますよ」
「本当ですか? そうしていただけると助かります」
公博は、素直にホッとした。続けて質問した。
「説明会をすれば、周知したことになりますか?」
「いいえ。説明会をしても、就業規則を金庫に入れてしまえば、それは周知しているとは言えません」
「やっぱり、金庫はダメなんですね」
公博は苦笑した。
「それはダメですね」
アツコも笑った。
「従業員が“いつでも見られる場所”に置いておくことが大事です。 そうしないと、就業規則は効力を発揮しないんですよ」
「えっ、効力を発揮しない? 就業規則って、作ってさえいれば有効だと思ってました」
公博が目を丸くする。
「従業員に周知してはじめて意味があるんです。 御社の規模と仕事の内容なら、印刷して事務所に置いておくのがよさそうですね。
デスクワークが多い会社ならPDFで共有するのもいいですが、社外に出たり、整備工場で作業をされる方が多いので、紙の方が手に取りやすいでしょう」
「確かにそうですね。場所は、どこがいいのでしょう? 就業規則を置くとなると……」
「休憩室など、誰でも入れる場所がいいですね」
「なるほど。休憩室なら、立場とか職種に関わらず使うことができます」
公博はうなずきながら、新しい就業規則ができた状況をイメージした。
「社長を引き継いでから、事業も増やして、自分なりに会社を大きくしていく努力をしてきました。 それに伴って、従業員も増えましたからね。 整備士や事務員、それにパートさんも含めると十数人。 やっぱりルールをはっきりさせておかないと……」
「そうです。休暇や残業、慶弔関係も、全部“そのとき社長に聞く”というやり方では、社長の方が困ってしまうでしょう?」
「おっしゃる通りです。忙しい時に限って、質問が来るんですよ」
公博は小さく笑った。
アツコは真剣な表情に変わった。
「社長。会社の人数が増えた今、必要なのは“社長に聞かなくてもわかる仕組み”です。 ルールがはっきりしていれば、社長も従業員も余計な不安を抱えずに済みます」
「そうですね」
公博は、深くうなずいた。
アツコは少し間を置いてから、静かに言った。
「就業規則は、社員のためにあるものだと思われがちですが―― 実は、一番守ってくれるのは“会社自身”なんですよ」
その言葉に、公博の表情が一瞬固まった。
「会社自身を守る……? どういうことですか?」
「就業規則にルールを明記するのは、従業員に安心して働いてもらうためでもあり、同時に会社がトラブルに巻き込まれないためでもあります。 だからこそ、形式だけではなく“みんなが見える場所にある就業規則”にしておくことが大切なんです」
公博は深く息を吐き、背筋を伸ばした。
「わかりました。まずはそこから、しっかり整えていきます」
アツコはにっこり笑った。
「はい。それが、会社を長く続けるための第一歩ですから」
この後、公博は慣れない固い文章に苦戦しながらも、アツコの助けを借りて就業規則を作成した。
丸山オートの新しい時代が始まった。
(これはフィクションです)─・─・─・─・─・─・─・─・─・─・─・─・─・─・─・
金庫とは言わないまでも、御社の就業規則が、社長や人事部長の机の引き出しにしか入っていない、ということはありませんか?
アツコの説明にあったように、従業員がいつでも見れるような状態になっていなければ、周知されているとは言えません。
・うちの会社の周知の仕方は大丈夫なのか?・就業規則は作った時のままだけど、内容は大丈夫?
……など、気になること、わからないことなどあれば、こちらまでお気軽にお問い合わせください。
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