2026.02.19 メールマガジン 社労士アツコの事件簿バックナンバー 就業規則は作るだけじゃ意味がない。金庫の中に眠らせないで!

毎月10日ごろ配信のARIA Solutionのメールマガジン「社労士アツコの事件簿」は、ストーリー形式で楽しく面白く、人事労務や組織開発についてのエッセンスを学べるメルマガです。

社会保険労務士の初台厚子(はつだい・あつこ)が、人事労務に関する困りごとやトラブルを解決したり、ヒントやアドバイスを伝えたりしていきます。

“時代が変わった”と言われることがありますが、人事労務の世界、就業規則でもそれは言えます。

かつて、「従業員は文句を言わずに働いていればいいんだ!」という強い考え方がありました。

しかし、今は違います。

従業員が働きやすく、活き活きと活動する会社が成長していくことが、当たり前のように感じる人が多いでしょう。(現実にできているかどうかは別として)

今回は、時代が変わる前に、よくあった就業規則のお話です。

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■◆■ Case13 就業規則は作るだけじゃ意味がない。金庫の中に眠らせないで!■◆■

「初台先生、今日はよろしくお願いします」

小さな自動車整備工場を営んでいる有限会社丸山オートの社長・丸山公博は、少し緊張した面持ちでアツコを迎えた。

応接室のテーブルに並んだ資料を見て、アツコはにっこりほほえむ。

「こちらこそ。今日は就業規則の見直しについてですね。まずは現状を教えていただけますか?」

「実は……恥ずかしい話なんですが」

公博は頭をかきながら言った。

「就業規則、つい最近まで金庫の中にあったんです」

「金庫の中?」

アツコは思わず目を丸くした。

「父が社長だった頃は、社員も数人でしたからね。有給とか慶弔休暇とか、直接聞けばよかったんです。
 だから就業規則は金庫に入れっぱなしで……。
 私が社長になったときに、自分も見たことがなかったので出したんですが……」

公博は2年ほど前に、40歳で父の茂三からこの会社を継いだ。
会社と公博はほぼ同い年で、茂三が個人事業主の頃から数えると、40年も続いていることになる。

茂三の代で作った就業規則は、簡単なものではあったが、有給休暇を悪用されたくないと考え、金庫に入れていたそうだ。

今では考えられないが、かつてはこういう考え方が多かった。

「なるほど。でも、従業員の方々に周知は?」

「それが……ほとんどしてないですね。僕自身もまだ全部は読んでいません」

話すほど公博は下を向き、先生に怒られている小学生のようだ。

アツコは苦笑しながらうなずいた。

「そういう会社さん、多いんですよ。今回は、このひな型をもとに新しく作っていきましょう」

彼女は持参したノートパソコンの画面に、文書作成ソフトで作ったひな型を広げた。

「完成したら社長にデータを渡しますので、わかるように保存しておいてください。
 今後も改訂はあると思いますから、次に使えるように」

「はい。あの……出来上がった就業規則というのは、どうやって周知していけばいいんですか?
 印刷して配ればよいのでしょうか?」

「それよりも、従業員の方を集めて説明会をするのがよいでしょう」

「説明会が必要なんですか?」

 

「労働基準法では、就業規則の周知義務というのがあります。
 就業規則を作成するだけではなく、その内容を従業員に知らせなければならないんですね。

 簡単な修正だけなら、書面を配布したりメールで配信したりすればよいですが、今回は大きな改訂です。

 それに、今まで金庫の中にあったということは、従業員の人たちに説明したことはないですよね?」

「少なくとも、私がこの会社に入ってからは、ないですね」

「一見、面倒に思えますが、配布だけして『あとは読んでおいて』とやってしまうと、人によって解釈が違ったり、『これはどういうことですか?』とバラバラに質問がきたりします。

 そうしたことを防いで、すべての従業員がいる場所で説明し、疑問があれば回答しておくのがよいですね」

「なるほど。同じように伝わらない可能性があるのですね」

「そうなんです。誤解される場合もありますから、オープンな場で明らかにしておきましょう、ということなんです」

「わかりました」

公博は内心、父と共に働いてきた人たちが、果たして自分の話を聞いてくれるのかと、少々不安になっていた。

「もし社長おひとりで説明するのが不安でしたら、私も立ち会いますよ」

「本当ですか? そうしていただけると助かります」

公博は、素直にホッとした。
続けて質問した。

「説明会をすれば、周知したことになりますか?」

「いいえ。説明会をしても、就業規則を金庫に入れてしまえば、それは周知しているとは言えません」

「やっぱり、金庫はダメなんですね」

公博は苦笑した。

「それはダメですね」

アツコも笑った。

従業員が“いつでも見られる場所”に置いておくことが大事です。
 そうしないと、就業規則は効力を発揮しないんですよ」

「えっ、効力を発揮しない?
 就業規則って、作ってさえいれば有効だと思ってました」

公博が目を丸くする。

従業員に周知してはじめて意味があるんです。
 御社の規模と仕事の内容なら、印刷して事務所に置いておくのがよさそうですね。

 デスクワークが多い会社ならPDFで共有するのもいいですが、社外に出たり、整備工場で作業をされる方が多いので、紙の方が手に取りやすいでしょう」

「確かにそうですね。場所は、どこがいいのでしょう? 就業規則を置くとなると……」

「休憩室など、誰でも入れる場所がいいですね」

「なるほど。休憩室なら、立場とか職種に関わらず使うことができます」

公博はうなずきながら、新しい就業規則ができた状況をイメージした。

「社長を引き継いでから、事業も増やして、自分なりに会社を大きくしていく努力をしてきました。
 それに伴って、従業員も増えましたからね。
 整備士や事務員、それにパートさんも含めると十数人。
 やっぱりルールをはっきりさせておかないと……」

「そうです。休暇や残業、慶弔関係も、全部“そのとき社長に聞く”というやり方では、社長の方が困ってしまうでしょう?」

「おっしゃる通りです。忙しい時に限って、質問が来るんですよ」

公博は小さく笑った。

アツコは真剣な表情に変わった。

「社長。会社の人数が増えた今、必要なのは“社長に聞かなくてもわかる仕組み”です。
 ルールがはっきりしていれば、社長も従業員も余計な不安を抱えずに済みます

「そうですね」

公博は、深くうなずいた。

アツコは少し間を置いてから、静かに言った。

「就業規則は、社員のためにあるものだと思われがちですが――
 実は、一番守ってくれるのは“会社自身”なんですよ」

その言葉に、公博の表情が一瞬固まった。

「会社自身を守る……? どういうことですか?」

「就業規則にルールを明記するのは、従業員に安心して働いてもらうためでもあり、同時に会社がトラブルに巻き込まれないためでもあります。
 だからこそ、形式だけではなく“みんなが見える場所にある就業規則”にしておくことが大切なんです」

公博は深く息を吐き、背筋を伸ばした。

「わかりました。まずはそこから、しっかり整えていきます」

アツコはにっこり笑った。

「はい。それが、会社を長く続けるための第一歩ですから」

この後、公博は慣れない固い文章に苦戦しながらも、アツコの助けを借りて就業規則を作成した。

丸山オートの新しい時代が始まった。

(これはフィクションです)
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金庫とは言わないまでも、御社の就業規則が、社長や人事部長の机の引き出しにしか入っていない、ということはありませんか?

アツコの説明にあったように、従業員がいつでも見れるような状態になっていなければ、周知されているとは言えません。

・うちの会社の周知の仕方は大丈夫なのか?
・就業規則は作った時のままだけど、内容は大丈夫?

……など、気になること、わからないことなどあれば、こちらまでお気軽にお問い合わせください。

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