毎月10日ごろ配信のARIA Solutionのメールマガジン「社労士アツコの事件簿」は、ストーリー形式で楽しく面白く、人事労務や組織開発についてのエッセンスを学べるメルマガです。
社会保険労務士の初台厚子(はつだい・あつこ)が、人事労務に関する困りごとやトラブルを解決したり、ヒントやアドバイスを伝えたりしていきます。
2025年には、10月以降、各都道府県の最低賃金が、順次上がっていきました。
毎年この時期に最低賃金が変更されるので、「自分の時給も自動的に上がる」と思っている人もいるかもしれません。
でも、経営者としては、社員がレベルアップもしていないのに、仕方なく昇給したくないですよね。
どうしたらよいのでしょうか?
今回は、最低賃金と評価制度のお話です。 ↓↓
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■◆■ Case14 毎年上がる最低賃金。そろそろ評価制度を考える?■◆■
「社長! 私たちの時給も上げてください!」
昼の仕込みが一段落したタイミングで、パート歴4年のベテラン、吉田絵里が声を荒らげた。
「えっ、どうしたの急に?」
木下社長が慌てて振り返る。吉田の後ろでは、パート歴1年半の中堅どころ、須藤が気まずそうに目をそらしている。
「金子くんの時給は上がるんですよね? 最低賃金が上がるから」
「いや、まだ何も決めてないけど……」
「じゃあ、私たちは? 今のままですか?」
「え?! えっと……」
木下はタオルで額の汗をぬぐいながら口ごもった。
店の中では、ちょうど夕方の弁当ラッシュが始まる時間。パート2人のピリピリした空気に、この夏に入った新人学生アルバイト、金子はおたおたしている。
「まずはお客様が先! 混んで来るよ」
木下は混む時間になることの方へ、無理やり吉田たちの気をそらした。
(まいったな……)
仕込みの豚の生姜焼きをひっくり返しながら、木下はため息をついた。
夜になり、妻の久美子に事情を話すと、「アツコ先生に相談してみたら?」と言われた。
――そして翌日、木下はアツコの事務所にいた。
「最低賃金が上がると、アルバイトの時給も上げないといけないんですよね?」
「最低賃金ギリギリで設定しているなら、そうなりますね。法律で決まっているので、そこは避けられません」
「でも、1年以上働いている人たちは、今でもそれより上なんです。なのに、『自分たちだけ損した』っていう気持ちになってて……」
アツコはゆっくりうなずいた。
「木下社長は、最低賃金がどうのという前に、頑張っている人に給料を出したいですよね」
「はい。経営者なら、みんなそう思うんじゃないでしょうか」
「では、どうやって“頑張っている人”だと判断しますか?」
「え? どうやってって……」
木下は、言葉に詰まってしまった。
「“頑張っている人”だとわかるには、何かしら評価の基準、つまり評価軸が必要です」
「それはそうですけど、最低賃金と評価の話って、別のことですよね?」
話が見えず戸惑う木下に、アツコは一息ついてから、話し出した。
「最低賃金が上がるたびに給与の話をするより、『どう頑張れば上がるのか』を決めた方が、全員が前を向けますよ」
「評価制度ってことですか?」
「そうです。でも、何をどう頑張っているのかがわからなければ、評価できませんし、従業員も、『頑張れ!』と言われるだけでは、どうしたらいいのかわかりません。
たとえば、御社が、『感謝する』ことを大切にしている会社なのだとします。 感謝することを実現するために、具体的には何をしたらよいでしょうか?」
「感謝することを実現するために……? うーん、『人に感謝する』、とか?」
アツコが微笑んで続けます。
「では、『人に感謝する』を評価の対象としたとして、パートの吉田さんが、それができているかどうか、どうやってわかりますか?」
「……。わかりません、ね」
「そうなんですよ。これは、ほかの会社さんでもやってしまいがちなことです。 『人に感謝する』だと、人に感謝しているのかが客観的にわかりません。
なので、『相手の目を見て、ありがとうと言っている』というように、周りの人が見てわかるような、行動することを評価対象として設定するのです。
そうすると、短期間でレベルアップすることができるんですよ」
「なるほど、行動することか……」
「はい。どんな行動ができればレベルアップしたのかがわかるようにしておくと、『自分はどこまで来たか』『次は何を頑張ればいいか』がわかります。 それがモチベーションになるんです」
「先生のおっしゃることはわかりました。 評価制度を導入すれば、最低賃金がいくらかということではなく、全員が公平に評価されて、その結果、給与が決まるということですね。 でも、評価制度の導入は、大変そうですよね?」
「何も、大がかりなものでなくていいんですよ。 まずはたった3項目でいいので、何をしたら評価されるのかがわかればいいのです」
木下は腕を組み、しばらく黙っていた。
「……たしかに、吉田さんも須藤さんも、戦力なんです。 長く続けてくれてるし、金子くんの教育もしてくれてる。 『頑張りを見てくれてる』って感じてもらえたら、きっと雰囲気も変わりますね」
アツコはニコリと笑った。
「そうです。給料は“数字”ですが、働く人にとっては“気持ちの通信簿”なんです」
その言葉に、木下の表情が少し和らいだ。
「先生、うまいこと言いますね」
「ふふ、社労士ですから」
――1ヶ月後。
ニコニコオレンジでは、パート・アルバイト向けの簡単な評価シートが導入された。
「えーと、私は今どの辺りなのかな? ドキ! 『ありがとう』って、目を見て言ってるかな……?」
「“後輩のサポート”も評価対象だって。ますます頑張らなきゃ!」
「えーっ?! お手柔らかにお願いしますよ~」
スタッフの声が弾む。厨房から聞こえる「お願いします!」の声にも、以前より明るさがあった。
夕方、木下は合間を見て、アツコに電話した。
「先生、みんな笑って働いてますよ」
「それは何よりです」
「評価制度って奥が深いんですね」
「ええ。でも、結局のところ――」
アツコは静かに言った。
「“評価”って、紙に書くものじゃなくて、毎日の『ありがとう』の積み重ねなんですよ」
受話器の向こうで、木下は小さく息をのんだ。
「……たしかに。明日から、もっと声をかけます」
店名の通り、今日もニコニコオレンジには笑顔があふれていた。
「いらっしゃいませ!」
(これはフィクションです)─・─・─・─・─・─・─・─・─・─・─・─・─・─・─・
評価制度を導入したものの、うまくいかず困っている会社は多いようです。
・制度を作っただけで運用されていない・評価するのが目的で社内がギスギスしている……など。
評価制度は、会社ごとの実状によって内容が変わってきますので、単純に他社の真似をしてもうまくいきません。
また、最低賃金については、政府が「2020年代に全国加重平均1,500円」を目標としており、今後も段階的な引き上げが続くことが予想されています。
経営者だけでは、どのように評価制度を構築して運用したらよいか、途方に暮れてしまうかもしれません。
弊社では、まずはシンプルな評価制度から、作ってみることをご提案しています。
ぜひ一度、ご相談ください。
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